Tuesday, November 13, 2012

ドゥルセ


誰が見ても美人としか思えない。大きな黒い目は黒くラインされ、エジプトの美人のようだった。だけどちっとも気どっていない。コケティッシュとやんちゃが混ざった少女のようだ。人の心をつかむ技は血筋なのだろうか。

「クレオと呼んで欲しい?」彼女が砂に潜っているカニを追う姿に笑いながら言った。
「それともネフェルティティがいい?」

彼女は答えず、波の中を走り、海鳥を追った。

「のど乾いたでしょ。」
一方的な会話だったけど私はひたすらしゃべり続けた。
「大丈夫よ。ビーチの北側には美味しい水があるから。スィートウォーター。アワドゥルセ、、、アワドゥルセ。」

ビーチの北側まで一緒に歩いた。
そこには真水のわき水がある。ビッグドッグと私と彼女と、ひんやりとした水でリフレッシュ。
その頃、私は彼女をドゥルセと呼ぶようになっていた。キャラメル色のきれいな毛並みとスィートな性格にピッタリな名前だ。

「ドゥルセ、一緒に戻る?」
Uターンし、湾の南側へ向かったがドゥルセもためらわず、一緒にきた。時には我々の先を。時には後ろを。あまり離れず、一緒に歩いた。
ビッグドッグが写真を撮るため立ち止まると、彼女は私の脇へきて寄りかかる。

「彼女は頭がいいし、お行儀もいいね。」人間にも動物にも厳しいビッグドッグも感心。「牧場の犬ももう少し彼女みたいだったらいいのに。」
で、我々は何故、ドゥルセを飼ってはいけないか、延々と話した。お互いに言い聞かせないとヤバかったのだ。

キャンピングカーに戻ると私はプラスチックの桶に水を入れてやった。
クンクン鳴くとビッグドッグは家の中に入れてやった。それには私も驚いたが、ドゥルセは家の中でもお行儀よく、ひんやりとしたタイルの上で静かに寝そべるだけだった。

「ねぇ。テオ君、覚えている?デビッドに引っ付いていたあのゲイの少年。」
「うん。デビッドが島まで連れてきた時は驚いたけどね」と答えるビッグドッグ。「デビッドはテオがゲイだと知らなかったみたいだけど。わあ、いいハウスボーイがついてきた、ラッキー!って思っていたのかも。」
「テオ君はいい子だったよね。」
ガーリーで女の子のようにケラケラ笑う優しい男の子テオはデビッドを恋人のように面倒を見た。デビッドはちっともゲイじゃないのに。

30年以上も前のことなのにかわいいテオ君の顔がハッキリと目に浮かんだ。

「ドゥルセも同じかも。毎年、新しい”お友達”を見つけ、愛情と優しさと交換に屋根と食事を貰っているのかも。」

ドゥルセは昨夜、玄関で寝ていた。そして、私はずっと一緒の暮らしを夢見ながら眠った。今朝、目覚めた時もスペイン語で「ドッグフードはどこで買えますか?」を練習していた。

でも、ドゥルセはもういなかった。どこかへ消えてしまったのだ。私のハートの欠片と共に。

私を振ったドゥルセ

Monday, November 05, 2012

浜辺の日々


渡り鳥は今年も南に来ています。

今まではメキシコ中央のナビダード湾の漁村に滞在することが多かったが、その村は最初に訪れた2004年からかなり変わってしまった。

まず、メインの道が舗装され、その翌年、舗装が彫り上げられ下水が入れられた。中心のプラザもある年(何故か)リニューアルされ、次に訪れた時は教会の緑色のネオンの十字架より遥かに明るいコンビニが二軒もプラザの脇でギラついていた。少年たちは伝統的なバケーロ(カウボーイ)の服装からどこでも見かけるBボーイルックに、少女たちは皆ジェニファー・ロペスに変身。プラザを意味もなくぐるぐる回る巨大な黒いトラックからはランチェーラではなくヒップホップやレゲトンが流れるように。

長年ここに住んでいる日本人の友人、吾郎さんもいう。
「昔はみんな知り合いだったけど、今は誰も知らないよ。よそから来ている人ばかりだよ。」

よそ者のメキシコ人とよそ者の外人。昔のような親しみは消えているような気がする。社会の構造がかわると何もかも変わってしまう。いい方向へ、とは限らない。

でも、今年はその村から20キロ北のテナカティータ湾のもっともっと小さな村に来ている。肉があまりない肉屋が一軒。洗濯屋が一軒。いつ行っても閉まっている金物屋が一軒。(週末、通りがかったら開いていた!)薬局兼医療所が一軒。魚屋は一軒もない。魚介類は漁業組合が独占しているのだ。

その他の買い物はアバロッテという原始的なコンビニにある。なければ、他の町に行くしかない。

メキシコの田舎町のレストランはみな昼間しかやっていないのが常識だが、どの町も数件のタコス屋台が夜現れる。しかし、この村はたった2軒の屋台しかない。それも7時~9時までの営業だ。

そして住処は20年以上もビーチに置いてあるサビサビ、ボロボロのキャンピングカー。夜は蒸し暑く、虫も多い。

でも、最高だ。

夜は波の音が子守唄。夜空は星でキラキラ。長い、ほとんど無開発のビーチはココナツの木に縁取られ、海は底が見えるほど透明だ。人口が少ない村なので通りがかると皆挨拶を交わす。

我が家はビーチと巨大クロコダイルが生息するマングローブ沼に挟まれているから虫が多いのはしょうがない。ビッグドッグは蒸し暑く寝苦しい夜に少々参っているようだが、私にはこの浜辺の日々がいい感じにフィットしている。