Monday, March 05, 2012

楽園の失い方

楽園を「発見」する。一握りのバックパッカーだけが知る秘密の楽園を。フィリピンの7000もある島々の中のひとつだ。(初めてフィリピンを訪れた時から現地の人々が「わが7000の島々」について語っていたが、正確にいくつあるのかはっきりしていない。調べると7107が正式な数らしいのだが、潮の加減で消えてしまう島もあるので、これもかなりアバウトな数字だ。)この小さな島には小さな漁村があり、幾つかの漁師と家族が竹とヤシの小屋に住んでいる。外人は最初はハードコアなバックパッカーのみだ。最後の数キロはジャングルの中をハイクしないといけない。で、ビーチに出たら島に渡るため漁師と交渉し彼らのボートでヒッチハイクだ。島には電気も車も発電機も水道も冷蔵庫もない。あるのは南国の楽園だ。あるのはアコースティックギターのメロディの中で踊る蛍。現地の人たちのように魚とご飯のシンプルな食事を食べ、生温いビールにも慣れてしまう。砂浜の上にある竹とヤシの掘建て小屋をリースする。5年で500ドルだ。でも、ずっとずっといたい気分。

ずっといたい。だが、楽園は「ずっと」あるとは限らない。楽園はゆっくりと消えていくのだ。

バックパッカーは仲間に秘密を漏らし、どんどんと新しいバックパッカーがやってくる。彼らも仲間に自慢する。旅人が増える。道が整備され、バスルートも延長されジャングルをハイクしなうてもよくなる。フェリーサービスが始まり、水上ヒッチハイクも必要なくなる。旅行者がどんどん増える。小さな航空会社はマニラからのほぼ直行便を開始する。観光客がやってくる。外人が増えると外人のニーズに答えようとする人々も増える。食事の幅が広がる。発電機の導入で冷えたビールも飲めるようになるのだが、夜の静けさはもう過去のもの。レストランやバーを開く外人もいる。観光客がどんどん増える。ビーチのわきの歩道にオートバイが現れ、マニラの娼婦たちもやってくる。

5年リースが終了し、再契約はしない。地主もそのほうがありがたい。彼らはもっと大きな夢を追うようになっているので。

20年後、初めてかつての楽園に戻る。昔のままなのは島の名だけだ。浜辺はホテル、ペンション、レストラン、バー、土産屋がところ狭しと並んでいる。全て外部からの人たちのビジネスだ。もともとの住人が営む商売ではない。海は観光客用のボートで埋め尽くされてしまい、時々奇妙は緑色の藻が繁殖している。ゴミも目立つ。小さな島は観光客に押しつぶされているようだ。昔の住民、仲良くしてくれた漁師たちなどを探しにいくのだが、やっと何週間目に見つけた一家族は島の反対側でーー強風と岩だらけの反対側でーーなんとかやっているのだ。開発のご利益は彼らのものではなかった。先祖代々の土地を売るのか早すぎたのだろうか。「食べ物も高くなってしまって、もう魚も高級品だよ」とぼやいていた。

楽園は自然に消えるものではない。楽園は「発見」により殺されるものだ。

このカリブ海沿岸も20年前は、、、どうだったのだろう。
過去を振り返る今日このごろだ。

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