Thursday, December 01, 2011

迷企羅大将とミショアカン

石や岩の上を走ったせいなのか?それとも悪意がからんでいたのか?サンミゲールからの出発はタイヤのパンクで少々遅れてしまった。

「すぐ先にタイヤ屋があるよ」と教えてくれたのは“その場で洗車”を売ろうとした男だった。ビッグドッグが笑いながら「いいよ、レンタカーだから」と拒否したら、男はパンクに気づき教えてくれた。
「都合よすぎない?すぐそこにタイヤ屋があって、ここで路上駐車した車がパンクしているなんて」と私は疑った。「私がタイヤ屋を経営していて商売が落ち込んでいて、目の前に別の州のナンバーの車が一晩路駐して、、、次の朝、パンクしていたら、、、嬉しいだろうな。」
「メキシコ人はそんなずる賢くないよ」とビッグドッグはいつも人間の善意を信じるのだ。

とにかく、すぐ先にタイヤ屋があったのは不幸中の幸いで20分後にはタイヤも直り、「行ってはいけない」と言われていたミショアカンに向かっていた。

「一大麻薬カルテル、ラ・ファミリアの本拠地だ!」
「パツクアロではあちこちで銃撃戦になっているんだよ。」
「ハイウェイも麻薬組織が占領して大変なんだ。」
「山奥に隠れ家があるから絶対に行っちゃいけない。」
「海岸は車通りが少ないからヤバい。」
「アメリカとの国境近くと同じくらい危ない。」

メキシコ人、外国人問わず、いろんな人から警告されていた。でも、ミショアカンは一番気に入っている州なのだ!山々は美しいし、海岸は未開発の自然のまま。コロニアルな街は立派だし、インディオの村は不思議な魅力に包まれている。危険すぎるという警告で前回のメキシコ滞在中は訪れなかったが、今年は「危険」の概念も少し変わってしまった年だ。地震に津波に原発事故、、、我々のトラック事故や謎の病気などなど。危険はいたるところで待ち構えている。避けようと思っても避けられない。だったら好きに生きるしかない。

そう思っていても、ミショアカンを旅する間はずっと迷企羅大将のお守りを握りしめていた。守護大将の威力か、コロニアルなモレリアでも、一番ヤバいと言われていたパツクアロでも、麻薬組織より普通の強盗が多い海岸地域でも事件に巻き込まれずピースフルなロードトリップを堪能できた。

唯一の事件はパツクアロの町から海岸へ向かうとき、、、

「あ、チェがいるよ」
高速道路の最初の料金所の手前でビッグドッグが速度を落としながら言う。
「え?チェ?」なんのことだ?
料金所の方を見るとビッグドッグが言っていることがわかった。チェ・ゲバラのあの有名な肖像のバナーが料金所のブースの間に吊るされていた。開いているブースの手前には車やトラックの渋滞。料金所のまわりには顔をバンダナやスキーマスクで覆って人々が。
イヤな予感。私はお守りを更にかたく握った。

しかし、料金所に近づくとわかる。これは麻薬組織の仕業ではなくデモ中の学生たちだった。(去年か一昨年、学生デモで数人の学生が殺され、何人もが逮捕され虐待されたそうだ。その事件を記念するデモがこの週末、地域中で行われていた。)料金所のブースを通るとバンダナマスクの男の子が小さなフライヤーを渡すだけだった。まわりはパーティムードいっぱい。緊迫した雰囲気は一切なかった。

「料金、取らなかったね。彼らのために寄付したのに。それにしても、いつもいる料金所の従業員はどうしちゃったんだろう?人質?」

従業員の運命も、学生たちの運命もわからないまま海岸へ向かったが、途中でパツクアロ、そしてハイジャックされた料金所へ走っていく軍のトラックが何台も通り過ぎた。すべて重装備され、何十人もの兵隊を乗せたトラックだった。迷企羅大将を握ったまま、心の中で祈った。平和でありますように。学生たちのために、パツクアロのために、ミショアカン、メキシコ、そして世界のために。

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