天国と地獄

エデンの東、要するにカリフォルニアの内陸はいま地獄の猛暑だ。牧場からフリーウェイまでの道のりはまさに天国。赤と緑のレタス畑、見渡す限りのアーティチョーク、柔らかい草を幸せそうに食べている牛たちやシェイプアップされたサイクリストたちの脇を通り、西海岸を縦断するフリーウェイ101へたどり着く。101もここら辺は悪くない。絵本のようにかわいい農家やワイナリー、空気中をストロベリーの香にするイチゴ畑を通過。
しかし、いったん東へ曲がると心地よい海風が消え、地獄の暑さに突入だ。我々はサンタマリアの少し北から東に進む166号線経由でドッグファーザーが住む砂漠町、ランキャスターに向かった。東へいけばいくほど暑くなる。どんどん、どんどん。これ以上暑くなれるのだろうか?と疑うと、空気は「こんなもんじゃないよ」と言わんばかりに猛烈な暑さで攻撃してくる。海岸近くの優しい空気と違って、ここのはハードボイルドだ。
でも、こんなに暑いと逆になんだかワクワクしてしまう。あまりに暑いとスリリングだ。あまりに暑いとエンターテインメントだ。目の玉が乾燥しきってドライフリーツ状にならないのだろうか。人体の粘膜が乾涸び干割れそうだ。我々も含めて、あたりが全て自然発火しないのが不思議でしょうがない。

「またマリコパでバーガー食べるの?」ビッグドッグに訊いた。
「へえ、君も好きになったんだ。」
「別にそうじゃないけど。でもお腹すいていない?」

「トイレは?」
「・・・・・」
「エル・バーニョ?」英語が通じない時はスペイン語だ!これ、カリフォルニアの常識。
「私、コリアンよ」と女性が返事するとビッグドッグは「カムサハムニダ」と返す。店の奥の暗闇から「チーバガ!チーバガ!」と注文を繰り返す韓国なまりの男性の声が聞こえる。
今のはなんだったんだ?!なんていう会話の流れなんだろう。スーパーシュールで楽しすぎる。
そう。自然が作る地獄は楽しい。だが、人間が作る地獄はただの地獄。エデンのもっと東南、ロサンゼルス・カウンティの外れにちゃんとあるのだ。
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