Monday, October 13, 2008

キティちゃん

ビッグドッグは猫があまり好きではない。たぶん、命令を従わないからだろう。でも、悪い犬は実はいい猫。そんな猫、私は好きだ。そして、猫も私が好きみたい。

昨年の秋、アケータに来た時は隣町、ユリーカの安モーテルにステイしていたのだが、今年は友人カップルが秋のヨセミテ国立公園へ行っている間、彼らの家で猫の子守り、キャットシッティングをすることに。猫はどうでもいいけど、彼らの5.1サラウンドHDTVに惹かれたビッグドッグはルンルン。

土曜日の午後、中間のサンフランシスコで彼らと合流。ベトナム人街の中では少々不思議な南国アイランド風のバーで地ビールを飲みながら家の鍵や猫マニュアルの受け渡しが行われた。カリフォルニアの秋はインディアンサマーと呼ばれ、夏日がいきなりやってくる。その日もサンフランシスコの有名な霧は遠く海の向こうで待機。まぶしい日差しが街を輝かせ、バーの暗闇の中にまで忍び込んでいた。

「スパズは自分のトイレを使わないけど心配しなくても大丈夫。彼女のウンチはカラカラ、炭の固まりみたいだから」と忠告してくれるアービー。
「で、テンカンを起こすとお漏らししちゃうけど、慣れているから大丈夫」フェザーも付け加える。

だ、だいじょうぶ?私、大丈夫じゃないかも。なんて思いながら、彼らが作成した猫マニュアルに目を通した。スパズは生まれつきテンカン持ちで毎日2錠の薬が必要だ。ハフィーはシャイだけど慣れると人なつこい。ボッシーは凶暴。キラーとプリンセスは近所のシャム猫たちだけど、いつも彼らの家に来ている。などなど、それぞれの猫の性格、好み、習慣などが獣医などのコンタクトと共に書かれていた。

私の不安な表情を受けてか、フェザーは「薬は毎日のことだから、彼女も慣れているわ。口の脇を軽く叩いて、口を開けたら薬を入れるだけ。スパズはとてもメローよ」と教えてくれた。
「そりゃそうだろ。毎日2錠もフェノバルビトールを摂っていればいつもラリラリだろうよ」とビッグドッグは笑った。「大丈夫だよ。俺、高校の時、獣医のアシスタントとして働いていたから。」

ーーー

「スパズちゃんの薬の時間だよ。」
「君やれよ。」
「えええ?獣医で働いていたの、私じゃないよ!自分以外の誰かに薬を与えたことすらないし。アンタでしょ、慣れ慣れなのは?」
「あれは薬に慣れていない猫だったから、無理矢理口をこじ開けて鉛筆の後ろの消しゴムで押し込んだんよ。」
それはメローなスパズには惨すぎる。
「スパズちゃん、薬の時間よ〜〜」猫なで声ってよく言ったものだ。
スパズは大きな目で私をじっと見つめるだけだった。

最初は優しくやろうとした。フェザーが教えてくれたように。
口の脇をトントンしながら「さあ、お口を開けて〜〜〜」と。
「そうそう。もうちょっと大きく。はい。お薬よ〜〜。ほら。ちゃんと飲み込んで・・・ダメ!出しちゃダメよ〜」
錠剤をやっとこさ口に入れるとすぐに押し出してしまうスパズ。出てくるたびに錠剤は唾液で柔らかくなっている。
そして、入れるたびに私は乱暴に。最後にはグチャグチャの錠剤を口の中に押し込み、口を押えた。すぐに溶けてしまったのか、何も押し出すものがない。

スパズ以外の猫は日中は外だが、「夜は家の中にいるようにして」というのがフェザーの希望。しかし、もう夜9時なのに家の中にいるのはスパズだけだ。
「ボッシーは見かけたけど今はどこにいるのかわからないし、ハフィーはまだ目撃さえしていないよ。どうしよう?」
「シッ」テレビの政治座談会に夢中だったビッグドッグは私を黙らせた。猫のことなんてどうでもいい。猫グッズだらけ、猫寺のような家にいるのがとてもミスマッチだった。
でも、猫が支配する、決して清潔とはいえないこの家。私には妙に心地よかった。バッドドッグではなく、グッドキティなのかもしれない。

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