Monday, January 21, 2013

マーティン・ルーサー・キング・デーと銃

今週末は3連休。マーティン・ルーサー・キング・デーなのだ。公民権運動のヒーローを讃えるホリデーっていいじゃない!他にあるかしら、平等と人権のために戦ったリーダーの誕生日がオフィシャルな休日になっている国。素晴らしい人物のための素晴らしいお休み。こういう時、ああ、アメリカっていいな、と心から思えるし、アメリカ人だったら鼻高々だと思う。

そんなことを考えながら家の脇のガーデンで庭仕事をしていた。1月とは思えない暖かさで小鳥たちもぴょんぴょん、ぴよぴよ。自然の静けさと彼らのさえずりを楽しんでいると、、、

バン!!バン!!バン!!

銃撃の音だ。ボーイズ、またやっているね。丘の上からスキート射撃。

去年のテナント交代劇で牧場のテストステロン量が増えただけでなく、銃の数も増えた。大量に。

前から住んでいるJDもガンマニア・ガイだ。実は私の銃初体験も彼のコロラドの家を訪れた時だった。(コロラドで銃といえば、コロンバインの悲劇がありますね。)ビデオ取材の仕事が終わり、彼の家で打ち上げが行われたのだが、なぜかホットドッグやビールと共に銃もたくさんあった。

「BYOガンだったの?」と笑った。JDと当時のワイフも骨董品のライフルからハンドガン、いろいろ持っていたが、来る客もみなお気に入りの銃持参でやってきた。そしてパーティが盛り上がると、射撃大会が始まった。壊れたコーヒーメーカー、空き缶、箱、、、ターゲットにできるものが次々とガレージから登場。赤ちゃん人形はブラックすぎて恐かったけど、もっと恐かったのはアルコールと銃のコンビネーション。

そしてついにタネライトが持ち出された。

タネライトは特殊な爆薬だ。安定しているのでJDが嬉しそうにいうように「叩いても、飛ばしても爆発しないから郵送もできちゃうんだ。でも、ある口径以上の銃で撃つと、、、ドッカーン!」

「何を爆破しようか?」
「あの木がいいよ。死んじゃったので切り倒さないといけないと思っていたから丁度いい」
JDの指示で友人はチューブ状のタネライトを木に巻き付けた。そして、家のデッキからみんなでバンバン。あっという間に誰かが命中し、ロッキー山脈の広大な谷間に爆音が響き渡った。

幸い、牧場では控えめのJDだが、去年の夏から住んでいるハガティ兄弟もガンマニア。愛好家同士で射撃熱が煽られている。ハガティ兄弟と仲良くなったJDは彼らのことをタリバン兄弟と呼ぶようになり、ライフル、ピストル、半自動式ライフルなど自慢しあい、ビッグドッグやもう一組の住人のフィルも巻き込んでいる。

不安だ。銃が好きなアメリカ人は(大嫌い、という人も大勢いるが)銃があるから安心できると思っている。制御されたら「悪い奴らしか銃が持てなくなる。そうなったらどうやって自分や自分の家族を守るんだ!」と主張する。だが、私はアクシデントの方が多いのを知っているので、最近はキノコ狩りで森に入る時もリスクを感じてしまう。

アメリカの田舎だからしょうがないし、ビッグドッグは特に気にしていないようだから私も黙っている。今のところクレー射撃だったり、金属またはプラスチックの標的を撃つだけだし。鹿などは撃って欲しくない。

「フィルが買ってきたクレーピジョンは分解性で自然にかえるタイプだよ」というビッグドッグは私は安心させようとしているのだろうか。

今のところは我慢しているが正直な気持ち、半自動式の武器だけでもなくして欲しい。

パン!パン!パン!

小さな音はビッグドッグのライフルだ。お爺さんの時代から受け継がれたスリムな銃でボーイズの重装備に比べるとまるで豆鉄砲。

なんて奇妙な国なんだろう。マーティン・ルーサー・キング・デーという祝日がある一方、信じられないような武器も所持できる。弾丸によりあまりにも早くこの世を去ったヒーローの日とビールと射撃でわいわい騒ぐ男たちとのギャップの広さ。

しかし、このギャップは実にアメリカ的で、キング牧師を讃え、銃所持を受け入れるという矛盾もアメリカ的なのだ。自分の価値観や考えと正反対のことを受け入れられるからアメリカンドリームが実現できるのだと思う。私にとってのアメリカンドリームは経済的な成功とはまったく関係ない。意見や価値観、人種や性別や好みなどバラバラでも共存できる、というのがアメリカという社会実験の夢なのだ。もちろん、実際は摩擦もあり、共存も難しいのだが、国がこのような夢を持っていること自体が素晴らしい。

夕方、牧場の入り口近くに新しく植えた木を見にいく途中、JDに出会った。彼は数日前、落馬し、家でおとなしくしていた。

「射撃の音、聞こえていたよ」と嬉しそうにいうJD。「僕にとって子守唄のようだったよ。そう言えば、新しいライフル見せた?」

持ってきたライフルは戦場で使われそうな代物だ。特殊なつや消し加工やディテールだらけの半自動式。

「選挙の次の日、コロラドで買ったんだ。特注部分込みで1500ドルだったけど、数週間前、こっちのガンショップに持っていったら4000ドルで譲ってくれないか、とオーナーに聞かれちゃった。で、その時、ショップにいた別の客はその倍を出すって。わっはっは!」

新しい銃を見ると私は内心、身震いしてしまうが、表情は変わらず穏やか。私のかなりリベラルな価値観を受け入れて貰いたければ、JDのようなガンマニアも受け入れないと。心の中で正常とガンコントロールを願っていても。

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