Thursday, February 28, 2013

エル・カミオネッタ

フィリピンのジープニーもクールだが、太平洋のこっち側にもクールな乗り物がある。カミオネッタだ。通称チキンバス。 

引退させられたアメリカのスクールバスを色とりどりに塗り、飾りやクロームをいっぱい使い、バックミラーにロザリオをたらすとチキンバスに変身。グアテマラを代表する庶民の交通手段だ。街中、真っ黒の排気ガスを吹き出しながら渋滞の中を通り抜けるチキンバス。田舎のハイウェイを猛スピードで(同じく黒い排気ガスを吹き出しながら)走るチキンバス。新聞のページで事件になるチキンバス。愛され、憎まれ、狙われるチキンバス。 

まだまだ乗れるよ
グアテ・スタイルの公共交通機関の初体験はチキンバスではなかった。初体験はピックアップの荷台にベンチを入れ、まわりを鉄のフレームで囲った「コレクティボ」だった。 

どの乗り物もそうだが、座席のキャパと「本当のキャパ」は別物だ。グアテマラでは「どれだけ押し込められるか」が本当のキャパ。どのコレクティボもコンビ(公共のバン)もカミオネッタも押し込みチャレンジだ。時々テレビでそういうゲームを見るが、グアテマラ人を参加させたら毎回勝ってしまうだろう。

 最初のコレクティボはサンタカタリアからパナハチェルまでの短い距離。炎天下の中、5キロ離れたサンタカタリアまで歩いたので、もう歩きたくなかった。向かってきたコレクティボはすでに満員だったが、腕を出して止めるとちゃんと乗せてくれる。もう荷台の中には入れなかったのでバンパーに足をかけ、フレームをつかむ。落ちたら自分の責任だ。ちょっとしたスリルがある。 

しかし、スリルと楽しさでいうと、カミオネッタ、チキンバスに勝るものはない。

まず、超ローカルだ。99%の乗客は普通のグアテマラ人。乗るのも簡単。運転手の助手が待ち構えている。アナタのところまで来て、バスの行き先を言うか、アナタの行き先を訊く。ここで注意しないといけないのが、バスの実際の行き先を追求すること。「そっち方面」だけでも助手はアナタをバスに導く。乗り換えがあるかないかわからないととんでもないところへ行ってしまう。 

典型的なチキンバスの中
乗るのは簡単だけど、降りるのは少々難しい。我々は何度も降り損ねてしまっているが、他の乗客に訊ねれば親切に教えてくれるので早めに訊くこと。前もって地図を勉強するのもいい。大きな町や交差道路を把握しておき、乗る前に助手に再確認する。 

運転手も凄いが、助手も凄い。運転手の目となり、耳となり、運賃の集金人になり、荷物係にもなる。ぎゅうぎゅう詰めのバスでも運賃を取り損ねないし、二度取りもしない。

車内販売も楽しい。大きな停留所から何人もの物売りが乗ってきては(前の窓の上には英語で"No Food or Drink"と書いてあるのに)アイスクリーム、飲み物、スナック菓子、聖書、新聞などなどを売りに来る。満員のバスでも無理矢理、中を通りながら。 

そして、毎回、何かクレージーなことが起こる。

例えば、ロス・エンクエントロスとチチカステナンゴ間、大音量でバス中流れるスペイン語の歌謡曲(演歌?)の超感傷的な歌詞に笑いながら合唱していると急に音楽が止まる。前方の窓の上の棚にはリスの死体が飾られ(?)その死体を突いていた男が同時に客の方を向き演説し始めた。「ディオス」と連呼するので最初は宗教のお説教かと思ったが、なんとセールストークだったのだ。

小さなプラスチックの容器をバッグから取り出し、中の半透明のゼリー状の物体を手のひらにたたき出す。「スーパージャガー軟こう!これさえあれば、ちょちょいのちょい。頭痛?リューマチ?どんな痛みでも即解消!主婦の方たち、アナタの仕事は大変です。腰痛、肩こりになりがち。でも、スーパージャガー軟こうを塗るだけでオーケー!でも、それだけじゃないです。筋肉痛以外にもお腹のもたれ、腹痛、何にでも効くミラクル軟こうです。お子様にも安全、、、」超早口で延々と続く。「さあ、みんな欲しいですよね。たったの10ケッツァル。さあ、どうぞ、どうぞ。」

男は容器を乗客に配り出す。すぐにはお金を要求しない。でも、少しするとちゃんと集金に回る。品物を返す客はいない。 

あまりにも楽しいハプニングだったのでチチカステナンゴを通り過ぎても分からない我々。慌ててバスを降りて、反対側でまた町に戻るバスを待つはめに。 

チチ(グアテマラの町の名前は長いので地元の人たちも省略する)からロス・エンクエントロスに戻る時。(チチ~ロス・エンクエントロスはハプニングの多い区間?)ぎゅうぎゅう詰めのバスに乗る。スクールバス時代、二人の学生が乗っていた席はここでは3人用だ。私は前の方(一番混んでいるところ)の座席にお尻半分をのせ、全開のドア付近に置かれたビッグドッグのバックパックを見ている。助手はドアから身をぐーっと出し対向車、障害物などを見張っている。険しいカーブの多い山道にも関わらず、運転手は猛スピードで走る。そして全ての車両を追い越す。追い越し車線なんてないのに。対向車も見えないカーブなのに。崖っぷちなのに。猛スピードで追い越す。 

乗客は右へ左へ振り回される。隣の人にあまり倒れないよう、力を入れ、同時にビッグドッグのバックパックが外へ飛ばされないかハラハラ。飛ばされたらどうするかまでは考えていない。助手が取りに行ってくれるのだろうか?でも運転手は悪魔に追われているかのように凄い速さで走っている。無理だろう。 

このクレイジーな旅の間、ずっとクレイジーな音楽が流れている。チャップリンの映画のサントラのような、アップテンポのマリンバ音楽だ。ディズニーランドのクレイジーな乗り物に乗っている感じだ。 

運転手はさらに加速し、道に出てきたリスは逃げ回る。リスの方が速い。ちっ。運転手と助手は残念そうに目を合わせる。数日前に見たリスの死体はやっぱりトロフィーだったようだ。 

チャンチャカ・チャンチャカ・チャンチャカ・チャン。クレイジーな音楽は続き、我々も右へ左へと延々と振り回される。これが映画だったら笑えるなぁ。でも、カメラを取り出す余裕もなく前の座席にしがみついている私たち。何度、対向車に激突寸前だったか、思い出したくもないが、いつの間にかロス・エンクエントロスだ。怪我一つなく。

地元の新聞を見るたびに事件に巻き込まれたバスの記事がある。現金があるからよく狙われるようだ。運転手はグアテマラで一番危険な職業だとか。だから病的に危険好きな人たちに魅力的なのかもしれない。しかし、運転手だけではないかも。チキンバスに乗る人たちも全員危険好きなのかもしれない。


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