Sunday, February 24, 2008

星劇場

数日前の月食に続き、土曜の夜は星劇場だった。

「もし、今夜、何も予定がなかったらイプノティザドールを見にいきません?」とゴローさんのとてもチャーミングな次女、チサちゃんから誘いの電話がかかってきた。
2月上旬から町の端、ハイウェイ沿いに大きなテントが設置されていて、サーカスかと思っていたら「催眠術ショーをやっているんだよ」とゴローさんに先週教えられたばかりだった。「今週末が最後だし。」

催眠術にかかったことはないが、大昔、ラジオで働いていたころ、催眠術をやるマジシャンを知っていた。彼はラジオスタッフの友人で、よく夜中にやってきて 深夜番組のスタッフや出演者を楽しませていた。そうしているうちにプロデューサーに気に入られ、知らない間に番組の出演者になっていた。だが、ある日、 ディレクター同士の結婚式に招待され、そこでも催眠術ショーを行ったのが最後。例のプロデューサーに催眠術をかけてしまったのだ。

「ペット・ショップ・ボーイズのゴーウェストを聞くと、無性にサッカーが観たくなる~」という暗示で、本当に曲が流れる度に「あ、サッカーの試合、観ない と!」と騒ぎだした。みんな大笑い。曲が止まると、暗示から解放されるのだが、何故みんなに笑われているのかわからない。これが延々と続くうちにそのプロ デューサーは妙なパラノイアを感じるようになってしまった。そして次の週、マジシャンは番組から降ろされていた。

メキシコ人の催眠術はもっと陽気で楽しいはず!ということで8時半にゴローさんの次女と三女、日本で庭師をやっていて冬の間はゴローさんのお店で働いてい る青年タケ君、そしてお店の従業員何人かと一緒に大きなテントに入った。中はガラガラ。ステージの真ん前に子供たちのグループが、そしてポツポツとカップ ルや家族連れが「コロナ」や「コカコーラ」のロゴのついた白いプラスチックの椅子を埋めているだけだ。
「最後だから、もうみんな観たんだよ」というビッグドッグだったが、チサちゃんは説明する。
「8時半から始まるはずなんだけど、メヒコは絶対に時間通りにいかないのよ」
地元の人たちはみんな知っているのか、9時半が近づくと、会場は満員だ。プラスチックの椅子も後ろのスタンド席も人でギッシリ。しかもメヒコ人のみ。外人は我々だけだった。

「まだ始まんないのかなぁ」と思っているといきなり左右のスピーカーからディスコビートの爆音が。メキシコ人にとって耳が痛くなるほどの大音量は「辛い」のではなく「楽しい」のだ。

学芸会のようなカーテンが開くとステージにはカウボーイ姿の男が二人。アコーディオンとギターと口パクでランチェーロ曲をコミカルに演じる。ギターのネッ クを股に突っ込んだり、オナラ・ギャグをやったり。まるでドリフの「8時だよ!全員集合!」のメキシコ版を見ているかのようだ。こういうお下品なギャグ。 欧米人には好まれないが、メキシコ人は日本人とユーモアの感性が似ているのか、大ウケだ。

闘牛士の衣装を着た奇麗な女性の口パク、田舎のカウボーイっぽい年配男性の口パク・・・歌、歌、歌が続く。なかなか催眠術が始まらない。パフォーマーが変 わる度にカーテンが閉まり、客はスナック売りのところに群がる。入場料は20ペソ(200円程度)だけど、ここで儲けているのね。

続いて登場したのは町の白人観光客カップル姿をおちょくるパフォーマンスだが演じているのは最初の二人だ。なるほど。外にある「星劇場」の看板には何組ものエストレーヤ(星)が描かれているが、実際は4人だけなのね。

ピエロ(最初の男性のうちの一人)の観客参加のわけのわからないコント(これは言葉の問題で私がわけがわからないだけだ。しかも、タケ君も参加させられ、わけのわからなさ加減で観客は大爆笑。)これが終了していよいよ催眠術ショーだ。

催眠術師はスーツを着た二人の男性(年配の人と最初の口パクコンビの一人)スピーカーからはカウントアップとカウントダウン、そして「眠くな~る」「体が ふわふわしてくる~」「気持ちよくなってきました~」の暗示がかなり長い間流れる。ステージの後ろに並んでいる赤いプラスチックの椅子に10人の参加者た ちが座っているのだが、客席を見回すと、暗示にかかってしまった客もあちこちで爆睡している。

ショーそのものは他の催眠術ショーと似ていて暗示にかかってしまった参加者たちは架空の楽器を演奏したり、「中国語」で会話したり(「おかしかったよね、 あれ。中国語っていうんだけど、みんなアリガトウみたいなことを言うの!」とチサちゃんは後でお父さんに説明)同性同士で踊ったり(「さあ、あなたは15 歳。今夜はスウィートフィフティーンのパーティです」)アイドル歌手になってしまったり。一番愉快だったのが、おデブちゃんのシャキーラ。ま、唯一知って いる歌手だからとびきり愉快だったのかもしれないが。

終演したのは深夜。
「ああ、楽しかった!誘ってくれて本当にありがとう!」
スペイン語がほとんど理解できない私にはわけのわからない部分が多かったが、それがまた楽しさを倍増してくれたのかも。グローバリゼーションの時代、メキシコならではの体験って実に貴重だ。さあ、次は仮面レスリングがこの町にやってきてくれたらなぁ。

2 Comments:

Anonymous Anonymous said...

楽しそう~~ですっ。
田舎の余興、ステキ~~。
なんだか昔の日本も
こうだったのかな???

5:00 PM  
Blogger bad-dog said...

そうなの!メキシコの田舎は特に(ある年齢以上の)日本人にとても懐かしい「何か」を持っているのね。だから余計に和めるのかも。

7:32 AM  

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