Tuesday, December 07, 2010

旅の存在の軽さ

すでに限りないくらいの作家により語られているので何も新しいことなんて追加できないかもしれないが、やっぱり旅には不思議な何かがある。旅のパワーなのか、私もビッグドッグも旅をしている時が一番幸せで、満足感いっぱいだ。

長旅特有の「存在の軽さ」かもしれない。未知を知り、未経験を経験するために旅に出るのだから、旅先ではすべてを受け入れ、本当に「今」という瞬間を生きているように感じる。物理的な軽さも影響しているのかもしれない。自分で運べる荷物しか持てない。だから荷が軽い。具体的にも抽象的にも。旅では「我」を捨てられる。エゴを引きずる余裕なんてない。

実際、私は知らない文化の中にいるのがたまらなく好きだ。言葉が通じない国ではトイレットペーパーを買うだけでも大冒険になりえる。(少しだけスペイン語ができるというのも混乱の元になってしまう!)

メキシコの町は中心に教会があり、そこをセンターに町が広がるパターンがほとんどだが、数日前、トナラという町の中心のベンチでビッグドッグとニエベ・デ・ガラファというジェラートのような美味しい手作りアイスクリームを食べていた。ビッグドッグはイチゴ味、私はバニラ。

「知ってた?イチゴ味のアイスを食べる男はゲイなのよ。」
「そんなアホな。」
「キューバだけかもしれないけど」とキューバの映画『イチゴとチョコレート』の話をし始めた。でもビッグドッグは上の空。プラザの向こう側で丸太をナタで切っている男が気になっていた。

「いったい何やってんだろう。」

インディオ系の男は石畳の上にあぐらをかき、コツコツと膝で挟んだ丸太をたたき切っていた。コンコンコン。私もナタのアークにひかれていた。そのうちカウボーイハットの男が彼の前に現れ、会話が始まる。すると樵男はアフターシェーブローションのCMかのようなパントマイムをし始める。架空の瓶を左の手のひらに向けて振り、両手を合わせてから顔を軽くパシャパシャと叩く。どう見ても、このジェスチャーは「アフターシェーブローション」だ。

しかし、近づける前にカウボーイはどこかへ消え、樵男も今日の仕事は終わったのか、丸太とナタを抱え人ごみの中へ消えていった。

「今のはなんだったんだろう」二人で首をかしげるのみ。

一生の謎だろう。旅先では単に木を切る男のアフターシェーブパフォーマンスなのだ。それ以上の意味は求めてはいけない。