Monday, May 21, 2007

魔法の砂漠

「急に牧場を離れないといけなくなってしまったの」と友人にメールしたら、ブログを読んでいたらしく「え?もう牧場、売られてしまったの?」と心配してくれた。(ありがとう!涙!)いや、今のところ販売はペンディング、と危機度は下がっているのだが、ドッグファーザーが手術をすることになり、ポスト手術のケアを頼まれただけなのだ。

ということで、先週の木曜日、発芽した種を入れたトレイをこっそりトラックの荷台にのせ、牧場からモハベ砂漠へやってきた。まず、ルート101を海沿いに南下し、マイケル・ジャクソンの幼児虐待裁判が行われたサンタ・マリア市の手前でルート166に。166はクヤマ・バレーを通り西海岸の「胃袋」といわれるサンホアキン・バレーへ行くのだが、このドライブがまたいいのだ。海岸を離れるにつれ、どんどん空気は乾燥し暑くなり、放牧用の土地もだんだんと荒野になっていく。

私は荒野が大好きだ。下町生まれ、下町育ちの母は「こんなところ、誰が住みたいの?」と思うのだが、何もない、人間の手により変えられていない広大な更地を見ると心が踊ってしまう。父親のDNAなのかもしれない。いつかは彼の故郷の満州を訪れてみたい。

サンホアキン・バレーの少し手前からオレンジ畑が始まり、徐々にブドウ園と化していくと国道5号が。I-5をそのまま走ればロサンジェルスに行ってしまうが、キャニオンカントリーの手前で東へ曲がり・・・・・ジョシュアツリーやユッカやアルファルファ畑を通り、ランキャスターへ到着。

私の“子供たち”は強風にやられてひどい姿になっていた。
「大丈夫なわけないじゃない」とビッグドッグにバカにされる。
ちっちゃな芽の多くは土にめり込んでしまっているのだ。ああ。無惨な姿。トレイが入ったプラスチックの箱をそのまま玄関の前に置いて次の日、また様子を見ることにした。

でも、ドッグファーザーは超元気。昨日手術したばかりとは思えないツヤツヤとした顔色、しゃんとした姿勢。

「前よりなんだか元気」と我々はびっくり。でも、本人はもっと驚いていたに違いない。
「こんなによくなるとわかっていたら、何か月も前に手術したよ」とニコニコしていた。

そして、次の朝、玄関に行くと、私のベイビーたちはなんと!ジャックの豆の木のように天まで・・・は伸びていないが、倍くらい成長しているのだ!(残念ながら、土にめり込んでしまったオクラちゃんたちはまだ復帰していないのだが。)それからも凄まじい速度で成長している。この砂漠にはなんか不思議な空気が漂っているのだろうか?

Friday, May 11, 2007

幸せイチゴ

ボブはボブキャットではなかった。ボブはマウンテン・ライオンだ。またの名、大山猫、クーガー、ピューマ… 

昨夜は我が牧場で牧場の住民たちとオーガニック農場の人たちでバーベキュー。そこで、私がボブキャットを目撃した話をしていると、コロラドJに「どうしてボブキャットだとわかるの?ボブキャットとマウンテン・ライオンの違いっていったい何?」と訊かれてしまった。

「マウンテン・ライオンの方が大きくて、四角っぽい顔をしているんじゃない?」というと、近所のモンターニャ・デ・オロ州立公園でレンジャーとして働いているサラが教えてくれた:
「ボブキャットは尾っぽがボブされているの。要するに、長い尾ではないの。でも、バッドドッグが目撃したのはラブラドール犬くらいの大きさでしょ?ボブキャットじゃないわよ。ボブキャットってもう少し小柄だから。大きいのはマウンテン・ライオン。凄いじゃない!大山猫を目撃しちゃうなんて!羨ましい!」

デザートは農場のジムが育てたイチゴ3種類。数日前に頂いたシースケープという種類のイチゴで私はショートケーキとチョコレートイチゴを作っておいたが、あと2種類のイチゴもあったので、大イチゴ試食会となった。「アルビオン」は実がしっかりとしているのだが、パンチのきいたイチゴ味。大人の味、というのだろうか?シャンパンと一緒に食べたら美味しいだろうな、という感じ。シースケープはもっと柔らかく、デリケートな実だが極甘。チャンドラーは「ああ!これよ!伝統的なイチゴの味って!」と唸りたくなるくらいストロベリーしている。

と、みんなワインをテースティングしているかのようにわいわいとイチゴを評論していた。

「今の時期、イチゴがうまく育たないと、不愉快で機嫌悪いんだ」と笑うジム。
「じゃあ、今は超ハッピーね!」と笑う我々だった。

私も。パワーブックを落として壊してしまったり(といっても、閉まらないだけで、今のところ普通に機能してくれているのだが)急に牧場を来週離れないといけなくなってしまったりでブルーになっていたのだが、イチゴを頬張っている間は私も超ハッピーだった。

Wednesday, May 09, 2007

ずっとこの土地の音を楽しみながら作業を続けてきたのだが、最近はiPodで音楽を聞きながら仕事をするようになっている。先週は午前中はパティ・スミスの新譜やパールジャムの旧譜、午後はスラックキーギターにはまっていた。ホースをエアギター代わりに踊りながらの給水は最高だ!

静かで孤独なところが魅力のこの牧場だが、ここのところはいろんな人とも会っていて、それはそれで面白い。西側は造園所でここの家族とは去年会ったのだが、東側の家族は最近やっと会った。ここの土地のオーナーは白髪、白ひげの人間嫌いなジイさんでチラリとしか見たことがないのだが、噂はいろいろ聞いていた。「土地の奥で大麻を栽培している」とか「ある子連れの女と同棲していたけど、その娘が大人になると、彼女の方を好きになってしまった」とか。で、先週、我が家にやってきたのがその母娘だ。新しい納屋を建てるため、電柱を動かさないといけないのだが、そのためには電力会社はうちの土地に入らないといけないので、その許可が必要だった。話しているうちに判明したのが、ジイさんと結婚しているのは娘の方で、今や母親はトレーラーハウスに追いやられていること。

で、土曜日のシンコ・デ・マヨ(5月5日のメキシコのお祭り)には向い側(と言っても、小川を渡り、原っぱを二つ越えたところ)のご近所さんのバーベキューへ招待された。そこの15歳の男の子が我が家に住んでいる女の子のクラスメイトなので引っ越してきてから何度がうちに来ているのだが、土曜日は彼の家族とご対面。さすが、メキシコ系!大家族!男の子3人、女の子3人、犬3匹、そして真ん中の娘のフィアンセ、という具合で、パーティに呼ばれたのはビッグドッグと私にクラスメイトの女の子と彼女のお母さんだけだが、わいわい、楽しいパーティだった。

次の日も、今度は山を越えたところにあるオーガニック農場のパーティへ。コロラド(その前は東京)に住んでいる友人も現在、馬を連れてここで冬を過ごしているので、かなり賑やかだ。

だけど、私の心の奥には雲がかかってしまった。ビッグドッグはどうしてもこの土地を売りたい、ここから離れたいのだ。じゃあ、私が彼の分を買えばいいのだが、それはビッグドッグと土地、どちらかの選択になってしまう。最初からこれは三角関係だったのかもしれない。私はここに来てから、この土地の虜になってしまっている。完全に恋しているのだ。幸せな三角関係って無理なのだろうか?

あまり物に執着しないようにしている私だが、やっぱり執着しちゃうし、完全に無欲になるにはあと一生か二生の修行が必要だ。「この世のものは全て借り物」とか「地球がホームじゃないか!何も一角だけにいることなんかないんだ!」と言い聞かせているのだが、ハートは頭のいうことを聞こうとしない。心は痛む。こんなに好きな恋人を自分から離れていかなければならないなんて、惨すぎる。

動物たちにもこの気持ちが分かるのか、青い目のオーストラリアンシェパード、マジックはなんだか最近調子悪そうだ。前のようなバカさ加減は見せてくれない。鶏たちも私のブルーとシルバーの足の爪を突っつかなくなってしまったし、馬たちもあまりふざけてくれない。寄ってくるのは猫たちだけだ。彼等はメランコリーが好きなのだろうか?先日、小川の方で騒ぎが聞こえ、様子を伺いにいったら砂色のラブラドール犬くらいの大きさの動物がいた。私の足音で振り向くと、大きな猫顔が!ボブキャットだったのだ。一瞬私の方を見て、また小川の脇の茂みに消えていったボブの後ろ姿もなんだか寂しそうだった。気のせいだろうけど。

Wednesday, May 02, 2007

足袋子

満月の夜。蛙たちのラブラブ・シーズンなのだろう。ケロケロケロケロ、一晩中愛し合っている声が聞こえる。安い連れ込み宿にいるかのようだ。(とは言ったが、実は他の客が聞こえるラブホテルなんて行ったことはないし、もしその客がカエルのようにケロケロ鳴いていたらビックリだろう。)虫もチョロチョロ鳴いているし、フクロウも時々聞こえる。

でも、昨夜の過激な不眠症は彼らのせいではない。赤ちゃんのような泣き声だったのだ。

今日、果樹園で作業している最中、また聞こえた。隣の古い納屋から。行ってみると小さな黒い子猫だ。毛並みもきれいだし、ちゃんと鈴付きの首輪もしているから誰かの飼い猫だが、どうやってこんなところまで迷い込んでしまったのだろう?飼い主が現れるまで飼いたいなぁ。オリーブ色の目がかわいいし、足の先の白が足袋のようだ。

「お前は足袋子。取りあえずね」と言ったあと、「黒猫タビコの宅急便♪」と歌いながら果樹の周りの雑草を掘り起こし続けたり、足袋子と遊んだり。でも、彼女のせいで作業はあまり捗らなかったようだ。