Sunday, July 27, 2008

失敗の刺激

牧場の母屋にはパントリーという部屋がある。日本語でいうと食料庫だ。

開拓時代のパントリーの棚はたぶん瓶詰めの果物、野菜、ピクルスやソースでギッシリ埋め尽くされていたのだろう。現代のアメリカではパントリーがない家も多いがあってもいろんな加工品や消耗品が買いだめされているだけのところがほとんどだ。自家製のソースやジャムなどの保存食を収納しているところなんてみたことがない。(もちろん、そういう開拓時代っぽい生活をしている人たちもいるのだが・・・)

我がパントリーは悲しいことにすかすかだ。キッチンには作り付けの棚がいっぱいあるのだが、入れるものもない私は何度もあちこちの棚の扉を開けて少ないものを探すより、キッチン関係のものを全部パントリーの棚に並べている方が能率的なのでパントリーに収納しているのだが、それでも棚の半分は空だ。使っている棚の三分の一は鍋やベーキングシート、ケーキ型や保存容器など、三分の一は電池や電球、延長コード、蚊取り線香(!)やハエたたきなど、毎日いらないが必要な時にすぐ出せるようにしたいものが入っている。あとは乾物や缶詰少量など・・・だったが、今はパントリーがちょっとした醸造室になっているのだ。

牧場の住人、ジョンは去年から自家製ビールにはまっていて、なかなか美味しいビールを作っているのだ。時々、1-2本味見させてくれるのだが、そうしているうちに私も自家製ビールを作りたくなってしまい、何年か前にクリスマスのセールで衝動買いしてしまったビール造りキットで最初の6本を作ってみた。(キットは6本分のビールが4回作れることになっている。)

モルトとホップスを煮て、砂糖とイーストを加え、待つだけ。

「楽しみだね!ジョンのビールくらい美味しいといいね」ビッグドッグも時々パントリーの中で発酵している容器を覗いていう。
「そうだよね。時間はかかるけど、労力はたいしたことないし。これでいいビールができれば、かなりビール代が浮くんじゃない?」

2-3週間後に発酵した液体を瓶に入れ、さらに待つ。

キットには「瓶に入れてから10から20日寝かせる」と書いてあるのだが、もう待ちくたびれた私は10日後に1本トライ!

どんな味なんだろう?瓶を開けた時、炭酸のシュワッが本物っぽいぞ。匂いもまあまあ。グラスに注いでみると、色もなかなか。で、ワインテースティングのようにちょっとだけ飲んでみると・・・

ゲッ。マズィ。

「クアーズより、バドワイザーよりマズいよ~~~!」

それでもビッグドッグに飲ませる私。「ほら、マズいでしょ!」
待つ時間が長いから余計に失望が大きいのかもしれない。

最初の6本はもう少し寝かすことにして、めげずに再度チャレンジ!2回目のビールも既に瓶詰めしていて、3回目のビールも現在発酵中。

あのマズい体験をしてから、ピーチジュースの残りでピーチワインを、そして昨日は1ガロンの林檎ジュースを絞り、これを発酵させてシードルを作ろうとしているのだ。成功はとてもいい刺激になるが、私の場合、失敗はもっともっと強烈な刺激になるようだ。

Thursday, July 17, 2008

犬が消えると

猫がやってくる。山猫が。
次々と消えている小動物の行方がやっとわかった。

鶏を飼い始めた住人のジョンとローズ。日曜日、白昼の中、放し飼いをしているエリアから騒ぎが聞こえ、覗いたローズはビックリ。

「世にも大きなボブキャットだったのよ。真っ昼間なのに!鶏を口にくわえて逃げてったの!」興奮しながら牧場の住人たちに話していた。ローズは興奮のあまり長い尾っぽを見逃してしまったのだろうか?色とサイズからして、どうやらボブキャットではなくマウンテンライオンらしい。

数日後、ジョンは買ったばかりのペレットガンの練習をしていた。
「聞こえなかった?昨日、もの凄い鳴き声が延々と続いたけど」とビッグドッグに説明。「YouTubeで調べたら鳴き声は盛りがついたマウンテンライオンの鳴き声だったんだよ。ということは山からオス猫がどんどんやってくるかもしれないし、ローズは恐くて外を一人で歩きたくないと言っているんだ。」

マジックも、大食いのカイも、ヒステリックなペッパーもいなくなった今、牧場は猫たちの陣地になってしまったようだ。桃の木の下、道の真ん中、家の前とあちこちに山猫の糞が落ちている。今まで見かけなかった鹿も時々、山から降りてくる。牧場には大きな犬が必要だ。何匹も。ビッグドッグよりビッガーなドッグが。

Monday, July 14, 2008

ロードムービーのシーン

ああ、やっぱり牧場はいい!
のどかな田舎暮らしに慣れてしまうと都会は疲れる。でも、車社会のロサンゼルス。走っているだけで他では味わえないエンターテインメントもあるのだ。

シーン1
安いということで有名になってしまったガソリンスタンド。いつも客でごった返しているので、みんなフェアに順番待ちできるようにここは入り口と出口が別々にある。が!我々がガソリンを入れ終わり、出ようとすると出口から車が割り込んでくる。ビッグドッグはしかめっ面で運転手を睨むとその運転手は「ヘッ」という顔をして股をつかむ。

「今のは何だったの?」
「マイケル・ジャクソンじゃあるまいし」
「インキンタムシ?」

昔はロスの運転手はとてもマナーがよかったのに~。今はワーストかも。普通の生活では誰も割り込んだりしないのに、鉄に身を包むと人間が変わってしまうのね。

シーン2
フリーウェイで追い越すトラックの脇に「イケメン大学生お引っ越しサービス」と書いてあるのだが、運転手はメキシコ系のオヤジだ。

「過大広告もいいところ!もっとイケメンの、そして大学生っぽいドライバーを使わなくちゃ」
「でもキャッチーだね」
「性的虐待だと誰か文句いわないんだろうか?」
「ランジェリーギャルのハウスクリーニングだったら絶対に文句いう人たち出てくるんだけどな」

シーン3
土曜日のパシフィックコーストハイウェイは混んでいる。夏だし、暑いし、ビーチ日和。「ベンチュラカウンティからは空くよね」といいながら一番混んでいるサンタモニカ~マリブを走る我々。左側の車から大音量でダウンビートなヒップホップが流れている。こっちにもズシンズシン響いてくる。
少し先で今度は右側の車からバングラビートが聞こえる。サングラスの男と派手な化粧の女は南アジア系だ。女性は狭い車のインテリアでボリウッドっぽいダンスを踊っている。

「リアル・バングラだ~!」
「え?さっきのヒップホップを78で聞いているのかと思った」というビッグドッグ。

78?今の子にはわからないだろう。おじさん、おばさんは昔、レコードというもので音楽を聞いていたのよ。で、「回転数」を変えたり、逆回転にしたりして遊んだのよ。(バングラやレゲトンがヒップホップの早回しという発想は面白すぎたので、家でトライしてみた。これはイケるかも。)

Monday, July 07, 2008

天国と地獄

月曜日、エデンから東南へ旅立った。

エデンの東、要するにカリフォルニアの内陸はいま地獄の猛暑だ。牧場からフリーウェイまでの道のりはまさに天国。赤と緑のレタス畑、見渡す限りのアーティチョーク、柔らかい草を幸せそうに食べている牛たちやシェイプアップされたサイクリストたちの脇を通り、西海岸を縦断するフリーウェイ101へたどり着く。101もここら辺は悪くない。絵本のようにかわいい農家やワイナリー、空気中をストロベリーの香にするイチゴ畑を通過。

しかし、いったん東へ曲がると心地よい海風が消え、地獄の暑さに突入だ。我々はサンタマリアの少し北から東に進む166号線経由でドッグファーザーが住む砂漠町、ランキャスターに向かった。東へいけばいくほど暑くなる。どんどん、どんどん。これ以上暑くなれるのだろうか?と疑うと、空気は「こんなもんじゃないよ」と言わんばかりに猛烈な暑さで攻撃してくる。海岸近くの優しい空気と違って、ここのはハードボイルドだ。

でも、こんなに暑いと逆になんだかワクワクしてしまう。あまりに暑いとスリリングだ。あまりに暑いとエンターテインメントだ。目の玉が乾燥しきってドライフリーツ状にならないのだろうか。人体の粘膜が乾涸び干割れそうだ。我々も含めて、あたりが全て自然発火しないのが不思議でしょうがない。
その上、途中の静まり返った田舎町、マリコパはかっこいいロードムービーに登場するような荒野の中の不思議な町。

「またマリコパでバーガー食べるの?」ビッグドッグに訊いた。
「へえ、君も好きになったんだ。」
「別にそうじゃないけど。でもお腹すいていない?」

マリコパのバーガースタンド、ジョリーコーンは韓国系の人たちが経営していて、これがまたロードムービーなのだ。去年、ここでランチした時、ビッグドッグがトイレを借りたく、客の注文を伺うかわいい女性に訪ねた。
「トイレは?」
「・・・・・」
「エル・バーニョ?」英語が通じない時はスペイン語だ!これ、カリフォルニアの常識。
「私、コリアンよ」と女性が返事するとビッグドッグは「カムサハムニダ」と返す。店の奥の暗闇から「チーバガ!チーバガ!」と注文を繰り返す韓国なまりの男性の声が聞こえる。

今のはなんだったんだ?!なんていう会話の流れなんだろう。スーパーシュールで楽しすぎる。

そう。自然が作る地獄は楽しい。だが、人間が作る地獄はただの地獄。エデンのもっと東南、ロサンゼルス・カウンティの外れにちゃんとあるのだ。

Wednesday, July 02, 2008

Goodbye, Hello

年明けごろから牧場の小動物が次々と消えている。

最初はチワワのプーカ。住人ローズの子猫パール。彼らはただ行方不明になっただけだが、鶏たちは確実に何者かにやられ、犯罪現場はスプラッター映画のシーンだったらしい。いない間でよかった!そして、ここ数週間でまたまた隣人たちの子猫も消えているとか。そうとう飢えている誰かこの山々にいるのだろう。

この家に住んでいた母娘も冬の間に引っ越し、週末には奥のオーク林の家からレンジャーのサラたちが引っ越してしまった。

なんだか寂しいな。でも、来週、新しい家族がやってくる。

「ここは本当にのどかで子育てには最高よ」と彼らに説明した私だが、同時に「でも最近、小さな動物はどんどん消えているからローワン君からは目を離さないほうがいいかも。」

私の大好きだったマジック(オーストラリアンシェパード)もプーカもサラのラブラドール犬ペッパーとカイもいなくなってしまった。1歳半のローワン君、4匹分のエンターテインメント、よろしくね。